2ちゃんねる ■トップに戻る■ バウムクーヘン 毛玉 
東方のアリス・マーガトロイドさんを愛し続けてみた 〜あいゆえにアリスさん〜

1 :1/13:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ むかしむかし、あるところに。
魔法使いの女の子と、人形の男の子が住んでいました。
森の奥でひっそりと暮らす二人は互いに支え合い、仲睦まじく暮らしておりました。


2 :2/13:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ 彼女はぼくより早く起きていました。外は晴天だろうが曇天だろうが、この家には一日中明かりがついています。
また徹夜で針と糸の仕事をしていたのでしょう。ぼくが顔を洗うフリを済ませて彼女の背後に近付くと、
せなかに目があるわけでもないのに気付かれて、先に声をかけられてしまいます。

「あら、おはよう」

いかにも朝らしい挨拶です。ぼくにとってはそれが気持ち良くて、とても好きです。

「おはよう」

せなか越しに、機械のように正確に動く彼女の指を見ながら、同じように返してやりました。
彼女の机にはきれいな布が積まれています。よくわからない色の、よくわからない形の、よくわからない模様の。
見ているだけでホームシックにかかりそうな、排気ガスの溜まった空のようなそれが、彼女の作品でした。
ぼくにはよくわかりませんが、西洋のデザインキルトは需要が高くて、最近は人里でもひっぱりだこなのだそう。
何日か前に、彼女が言ってました。

今のいままで針を突き刺していたそれを、彼女は引っ張ってぴんとさせます。
そうするとより一層重く暗く光るようで、早朝の気分とは食い合わせが悪いようにおもいます。
彼女は布を置いて、ぼくの方に振り返りました。金色の髪が揺れて、青色の瞳がぼくを突き刺します。
昨日と比べて、ヘアバンドが少し下がっている。視線を無視してぼくはそんなことを考えました。

「もうこんな時間なのね。朝ご飯にでもしましょうか?」
「いや、いいよ。何ならぼくに作らせてよ。あまり無理をすると身体に悪いよ」
「そうね、お願いしちゃおうかしら」

ぼくと話している間、そしてその後に大きく伸びをした時も、彼女はずっと笑っていました。
疲れているはずなのに、彼女はぼくの前ではそんな様子を見せようとしないのです。
ぼくはそんな彼女が頼もしくて、それがまた増々心惹かれるところです。
でもたまにはベッドで寝ないと疲れがとれないはずなので、生活リズムを規則正しく保ってほしいものです。

朝ご飯を用意するといっても、大抵は薄切りのパンを焼いて、すこしの野菜や卵を炒めたものを用意する程度です。
冷蔵庫の扉を開いたところで、ぼくは振り返りました。さっき彼女がしたように、軽やかに振り向いたつもりです。
彼女があくびをしているのを丁度見てしまいました。手をあてて、まぬけな顔であくびをしていた彼女は
少し固まって、顔を赤くして、そっぽを向いてしまいました。
可愛らしいと思います。

昨日はたしか、彼女が目玉焼きを作ってくれたと思います。
その前は、わかりません。覚えていません。だけど、きっと、そんなかんじで、同じような日だったはずです。
いつでもぼくに用意されているのは、変わらない日常だけだということみたいです。
何がいいたいのかというと、ぼくは卵を溶いて焼くべきか、そのまま焼くべきか、そういうことです。
悩んでもらちが明かないので、フライパンに落としてみてから決めようと思います。

「参ったわね、今日も雨か。洗濯物が溜まっちゃうじゃない」

彼女がカーテンをひっぱった音が聞こえました。それを追うように、彼女のぼやきが耳に届きました。
そうだ、最近は雨が多かったのでした。そのせいで、空気が何となくじめじめして、過ごしにくいような気がします。
こういう時はあまり動きたくありません。家の中でじっと本でも読んでいたいものです。

そのままゆっくり歩いて、彼女はまた机に向かいました。
針を持って、少し背中を丸めて、その体勢からわかるのは、彼女は作業を進めるみたいだということです。
雨のあいだに少しでも多く布を作っておくつもりなのかもしれません。彼女のやる気がぼくじゃない方向に向かっています。
せっかく人が朝ご飯を作っているのに、と思いました。フライパンを見ないで揺すりながら。
でもそれが彼女の選択ならば、それもいいのかと思います。それは結局大きく外を回って、ぼくにもやってくるのです。
安心してみていられる、と思います。彼女が自分のために、そしてぼくのためにやっていることだからです。
それでもやっぱり身体には気を付けて欲しいものですが。

今、ぼくがやるべきことは、彼女に……
――アリス・マーガトロイドに朝食を持って行ってやることだと思い出しました。

お皿に卵を盛ったところで、パンを焼いてない事に気付いて、あわててトースターを押し込みました。



次に里に行くのは二日後らしいです。それまでは、指を折って数えなくてもわかるくらい、やる事がありません。
ということは、彼女とずっといっしょにいられるみたいです。
昨日も彼女とずっといっしょにいました。今日もまた、そうなるみたいです。


3 :3/13:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ 「はいおしまい。お疲れ様」

そう言って、裸のぼくの背中がぽんと叩かれました。この軽い音は終了を意味しています。
二日に一回、こうやって彼女に身体の調子を見てもらうのです。数少ないぼくの「やる事」の一つでした。
こうしないと、もしもの時に対応できないらしいので、ぼくは言われたとおりに彼女に身体を任せます。
ぼくの事を一番良く知っているのは彼女です。このことは本当なので、何も言い返せません。

もぞもぞと服を着ました。やはり年頃の女性の前で裸になるというのは、少し恥ずかしいのです。
素肌の上にそのままフリースのシャツを着ると、何故だかちくちくする感覚が新鮮に覚えられました。
肌がびんかんになっている感じがしました。"行為"のあとはいつもこうで、不思議なものです。
でも、心がちくりとするのはシャツの前と後ろを逆に着ていたからなのかもしれません。彼女に指摘されるまで気が付きませんでした。

気分が落ち着いています。ぼくを外側から眺めてみました。
さっきと比べて身体の動きが軽い気がします。ミニ四駆に新しいアルカリ電池を刺した時のような、力強さまで感じます。
頭も冴えきっているようでした。さっき彼女がぼくに触れた時の温度まで、ずっとこの先まで覚えていられそうです。

今が何時だかわからなかったけど、彼女が余所行きの服を着ていたから、まだ午前中の、そんなに遅くない時間だとわかりました。
今日は出掛ける日だったか、それともまだだったか、考えてみたけどもちょっと思い出せそうにありません。
まあ、それでもいいやと思って、掃除でもしようと外を見たら、雨が降っていることを思い出しました。



ぼくが何の気なしに顔を上げたのと同時だったと思います。外から何やら音がしました。
音というほど立派なものではなくて、ただ何かが落ちたとか、その程度のものでした。
しかしぼくの目はなかなか抜かりのない奴で、玄関のところの窓から誰かが飛び去って行くのをとらえていたのです。
擦りガラスでくすんだ中で、赤い色が見えました。どうせ間に合わないとわかっているぼくは形だけあわてて玄関を開けます。
外へ足を一歩踏み出す、足が落ちるはずの場所には花束が落ちていました。

これは、花です。花が小さくまとめられているから、これは花束というやつでしょう。
もう少し別の言い方はないものかと考えてみると、ブーケという言葉がそれにしっくりくるようでした。
拾い上げてみますと、色とりどりの表情を持ったそれは思ったよりしっかりとした重さを持っていて、
まるでぼくに何かを語りかけてくるようでした。特にこの、小さい紫の花は、かっこいいと思います。
あたりを見回してみました。人影らしいものは、どこにもいないようでした。

ぼくは声だけで彼女を呼びます。すぐに彼女がかけてきました。呼ぶとすぐに来てくれる、そんな関係です。
彼女の目にはぼくと、開いた玄関と、その先の景色、そしてぼくに抱えられている花束が映ったはずです。
そんな彼女の目が、すぐに細められたのをぼくは見ました。彼女は駆けた足をとめて、ぼくの前に立ちます。
おっとりしている彼女ですが、なかなかどうして手を出すのは早くて、今回もそうでした、
ぼくの腕からぶっきらぼうに花束をむしり取ると、まるでぼくから遠ざけるかのように、わざとらしく持つのです。

「……誰が来たの?会ったの?」

ときどき彼女はよくわからないことを言います。
目を細くしたまま、顔をしかめてぼくの方を見ます。どちらかというと、ぼくの後ろの玄関から先の景色を見ているようでした。
その姿は普段の彼女から想像できないような、単純な緊迫をぼくに与えます。怖いです。
まるで後ろから弓やら槍やらカミソリが飛んできそうな、そんな雰囲気でした。

「既に誰もいなかったよ。誰かが来て、これを落としていったみたい」
「そう。だったらいいのだけど。……心配して損した」

何だか彼女がおっかなくて、ぼくは素直に答えます。誰かは居たんだけども、誰かはわからなかった。
彼女はその言葉を聞いて、肩に乗った重い何かを落としたみたいでした。
またいつもの顔付きにもどって、小さく溜め息を吐きました。前に垂れた髪が少しだけ揺れました。
ぼくは後ろ手で玄関をしめます。ガチャンと音がして、外の景色は見れなくなりました。

「全く、誰のイタズラかしらね。これは私が預かっておくわ」
「ああ、ありがとう」

花束の根元を持って、軽く揺り動かして見せました。彼女の笑顔ときれいな花束はとても絵になるようです。
ぼくも釣られて笑いました。植物由来のいいかおりが鼻に入ります。和やかな気分でした。

そのまま彼女は奥の部屋に入っていきます。奥の部屋に飾るのでしょうか。
そこはあまり日が当たらないから、どうせならトイレにでも飾ればいいのに、と言おうとしました。
でも、瞬きをする間に、するりと水が隙間に垂れるように彼女は扉の向こうに消えていたのです。

部屋の中は見れませんでした。ぼくはこの部屋の中が気になって、とても気になってしょうがないのです。
彼女はぼくに「秘密」だといいます。乙女が秘密を着飾って、うんたらかんたら、とかそういう感じの話なのでしょうか。
見られたくないものでもあるのかと思うと、やはり気になってしまうものです。いつか見てやろうと思います。
彼女が家を空けることがあればいいのですが、あいにく出掛けの際には必ずぼくをお供として連れて行くので
そんな機会はなかなか回って来ないのが現状でした。

その扉の先の空間から、彼女がなかなか戻ってこないので、ぼくだけがここに置いていかれた気分になりました。
何だか意味もなく、面白くないような気がしてきました。
そのまま、自分の家の中をぶらつく、という変な暇の潰し方をしてみることにして、少しだけ気が晴れたような気がします。



カレンダーに目をやって気付きました。まだ今月はめくってないはずです。
上を押さえて引っ張ると、紙がびりびりとそれらしい断末魔をあげて事切れます。
その下では新しい月がぼくを待ちかまえていました。念のため、彼女に聞いてみることにしました。今日は何月で、何日なのか。
扉の向こうから聞こえてくる声は、勝手にカレンダーをめくった行為を正当化してくれる、ありがたいものでした。

そうだ、思い出しました。毎月の初めに、玄関に花束が届くんだ。ということは、今日は一日。
また新しい月が始まるようでした。この出来事が一度や二度で終わるものではないことも、ちょうど今思い出しました。
記憶が数珠繋ぎになって出てくるようで、先月も、その前の月も、同じように玄関先に届いた花束を、
ぼくが拾い上げていたような気がします。イタズラにしては随分根気があるな、というのが感想です。

ひとつカレンダーをめくって、次の月のはじめの日に、印をつけておきました。
最初は赤のペンで丸をつけたのですが、少し考えて、花束の日だから花丸でいいじゃないかと思って、
そのままぐるぐると渦を巻かせて、まわりには花びらをつけてやりました。
何となく誇らしい気持ちになります。いい気分で、そのままペンを適当なところに置いて、ぼくはソファに座りました。

雨の日だから読書をします。彼女の本棚から、背表紙を見ずに一冊だけ選びました。
羊皮紙の表紙は固くてあまり好きじゃありませんが、内容とは関係ないはずです。
飽きるまで読もう、そう自分に制限をかけて、わざと序章の終わり目から読み始めました。



4 :4/13:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ 最近の趣味は読書です。といっても、彼女の本を勝手に読んでいるだけですが。
稚拙な文章でかかれた男女のはなし、この本をぼくは好きになり、いつでも読むようになりました。
いくら天気が良かったとしても、ぼくのこの気持ちを止めることはできないようでした。
放っておかれたらいくらでもページを進めることができそうです。

でも今日は大事な用事があるので、本ばかり読んではいられません。
しおりを挟んだ本を、また本棚に戻してやります。本の間にぐいっと押し込むようにしてやりました。
本がぼくの手元からなくなると、急に自分の目が開けたような気分になります。ぼくの横には編み籠が佇んでいました。
その中から、いやらしい模様をした布がぼくをみていました。慌ててぼくはその籠をひっつかみ、外に出ました。

「もう、何やってるの。日が傾いてからじゃ遅いんだからね」

家の前で彼女がまっていました。申し訳なさそうな顔を作ると、彼女は笑って許してくれました。
その後は、少しぬかるんだ道を二人で並んで歩きました。もう少し行った所に、普通の人々が住む里があります。
ぼくと彼女は、そこに珍しい布を売りにゆく行商人といったところです。
せっかく彼女が作ったものが、全然知らないだれかの手に渡るというのも何だかもったいない気もしますが、
これでぼくと彼女の二人が食べていけるのだから、必要な行為に決まっています。

道端で人に売りつけるだけじゃなく、呉服屋とか、そういうところに卸したりもします。
彼女の顔はもう人里では売れたもので、一定の信頼を得ているところが羨ましかったりします。
ぼくにはあんな面妖な生地が売れるのかと、未だに疑っているくらいなのですが、
彼女が店の中で楽しそうに談笑するのを見ていると、ぼくの感性は時代に追いつけていないなあと感じるのです。

後ろから彼女を眺めているのも飽きました。だから店に並ぶいろいろな着物を見ていたのですが、
結局それにも飽きてしまい、ぼくは彼女を放置して店の外に出ることにしました。
人里というのはとてものどかです。活気があって、なのに落ち着いていて、それでいて先がある感じがします。
「先がある」、というのはあれです、これから繁栄するのか、それとも衰退していくのか、わからないけども、
それでも訪れる未来があるということです。何だかそれが羨ましくなったのでした。

いつの間にか人里をふらふらと歩いていたぼくは、花屋の前にやってきていました。
無意識のうちにあの花束のことを考えていたのかもしれません。
だけども花屋の店先に並ぶその顔は、ぼくと彼女の家に届いたそれとはどこか違う気がしました。
まあ、もとよりこの場所で秘密が紐解かれるとは思いませんでしたし、ぼくもそれを望んでいなかったので
次はあそこの鯛焼き屋を視線で冷かそうと思い、そのまま歩いて去ろうとしたのです。



「あら、ごきげんよう」

不意に後ろから声をかけられました。本当に、いきなりのことでした。
それを聞いて、ぼくは気の抜けた顔をしながら振り向いてしまったと思います。
でも、いま思えば、もうちょっとまともな表情をして振り向けばよかったんじゃないかと思います。

振り返った先にいたのは、大きな日傘を差した美しい女性でした。
ぼくは少したじろいでしまいます。何故ならこのひとは全く知らない人だったからです。
思えば一緒に暮らしているひと以外の女性と話す機会なんて全くないので、怖気づいてしまいました。
やわらかそうな緑の髪の毛が軽く揺れました。彼女は優しい表情のままこちらを見ています。
本当にこのひとがぼくに声を掛けたのでしょうか、高揚ともとれる妙な気分です。

何と話しかけようか、そんな単純なことで迷っている間に彼女の容姿を上から下まで舐めるように眺めてしまったのは
はっきりいって失策だったと思います。これをこころよく思う人がいたとするなら、それはきっと"変な人"でしょう。
言葉を詰まらせたまま、彼女のスカートのチェックの模様をあみだくじみたいにして目で追ってみたりしましたが、
あみだくじではないので結局どこにもぶつかりませんでした。

「ああ、はい。その、今日もいい天気ですよね」
「そうね。久しぶりのお日様にこの子達も喜んでいるわ」

頭のなかのテンプレート置き場から無難そうなものを引っ張って前に出してみました。
目の前の女性は気持ちよさそうに笑い、花屋のほうへ目をやりました。釣られて僕も向きます。
言われてみれば確かにそんな気もします。植物にとって太陽というのは絶対必要な存在だからです。
ぼくがこの黄色い花だったとしたら、それはやはり嬉しいと思います。恵みが空からふってくるわけですから。
でもやっぱり、植物のことはわかりません。ぼくは木でもなければ花でもないので。
だから、世間話とはいえども、適当に心無いことを言うしかないのです。

「そうですね。最近雨続きでしたから……」

別にその後にダラダラ言葉を続けるつもりはなかったのですが、言葉が途中で途切れてしまうのを感じました。
目の前の女性がくるりと向こうをむいて、歩き出してしまったのです。失礼な人だとおもいました。
彼女のうしろあたまは日傘ですっぽりと隠れてしまいました。そうしてそのまま、ゆっくりゆっくりと歩いて行こうとするのです。
こんな言い方をするのもあれですが、まるでぼくが追い駆けてくるのを待っているような、そんなペースで足が動いています。

追い駆ける義理はもちろんありませんでしたが、途中でその人はまた振り返り、ぼくの方を見たのです。
今度は見ただけで、何もしませんでした。そうして顔を前に戻して、また歩き始めるのです。
ぼくははじめ、変な人だと思いました。天気がいいと変な人も増えるものです。この女性だって、そうに違いない。
でも何故だかぼくは小走りになって、その人に追い付いてしまったのです。

挑発されているように感じたのかもしれません、何か心を鷲掴みにされたような気がしたのかもしれません、
単純に美しい女性に興味を惹かれて、下心を丸出しでついて行ったのかもしれません。
結局そのどれなのか、またはそのどれでもないのか、それはわかりませんが、結果としてぼくはその人を追い駆けてしまったのです。
何やら不思議な気がしました。はじめからそうなるようになっていたような気までします。

追い付いて、横に並んでみました。そうするとその女性は、少しだけ足を速くするのです。
気を抜いたぼくもそのペースに合わせるように、しっかりと歩き出しました。
でもすぐもとのゆったりとした歩幅に戻して、日傘をちょっと持ち上げるようにして、ぼくの顔を見てきました。
その時、ぼくは恥ずかしくて顔をそらして気が付きました。いつの間にか人里から離れて、森の方へ続く道へ来ていたことを。

そうしてその人は言うのでした。

「ご一緒してくれるかしら?この後、お散歩でもするつもりだったの」

断る理由が見つからないというよりは、断るタイミングをうっかり逃して、ついつい一緒に歩いてしまいました。
きっとまだぼくには時間があるはずです。少しぐらいふらふらしても問題はないと思いました。
最初からふらふらしていたようなものでしたから。


5 :5/13:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ これを奇妙だと言うとこのひとはむっとするかもしれませんが、ぼくから言わせてみれば世にも奇妙なものでした。
歩幅がぴったりなのです。無意識のうちに息を合わせているのかもしれません。ぼくと、この見知らぬ女性は歩く速度が一緒で、
二人の足音が完全に重なって、かんたんなリズムを奏でているようでした。
不気味な気もしましたが、こんなこともあるものだとも思いました。

いつの間にか、完全にこのひとのペースに巻き込まれているのかもしれません。
言葉をいくつかやり取りする間に、けっこう打ち解けたような気もしたのです。
他愛ない話を聞いてくれて、そして毎回同じ顔で笑ってくれました。だれかと似ていると思いました。
もしかしたらこの女性は話すのがお上手なのではないかと思いました。ぼくの気分がとても上向きになったからです。
最初に自己紹介のようなものをしたときに、ぼくの名前を「素敵な名前ね」と言ってくれました。
単純ですが、嬉しかったのです。

「あなたは何をしている人なんですか」

並んで歩くとぼくより少し背が低いことがわかりました。ぼくはそんな女性に、恥ずかしげもなく質問を浴びせます。
なんだかこのひととはいい友達になれそうです。あまり家から出ないので、ぼくには友達という人があまりいないものでしたから。
期待が心の中でひょこっと顔を出しました。ぼくはそのままにしています。

「うーん、そうね。特に何もしてないわ。どこにでも居るような人ね」

質問を、このひとは上手くかわします。
上手くかわすというよりは、見ずにティッシュでくるんでゴミ箱に投げてしまうような言い方でした。
それでもぼくは納得します。あまり人は疑うべきではないと思いました。

「あなたは何をしている人なのかしら?」

同じ質問が、ぼくにも飛んできました。物事を隠したがる方ではないぼくは、きちんと返します。
そもそも、ぼくは隠し事がへたくそですし、そんなことをしてもあまり意味があるとは思っていませんでした。

「ぼくは、実は人形で、魔法で作り出された生き物なんです。とある女性に生み出されて、その女性を支えるために生きています」
「あら素敵。女の子を守るために生まれたなんてカッコイイじゃない。おとぎ話みたいね」

守るため、ではないのですけども。
それにしても、この事実はあまり人に信じてもらえるものではないと思っていましたが、このひとはやっぱり変なもので、
まるで最初から疑っていないかのような反応をぼくにくれました。そのうえ、かっこいいとまで。
何だか不思議な感覚です。妙なもやが頭のなかにかかっているようでした。

ぼくは人形として、人形師アリス・マーガトロイドの手によって生み出されました。
血も涙も持ち合わせていなくて、身体の中を流れているのは彼女の魔力というものだけです。
身体は木で、髪は糸で、目はガラス玉でできています。見た目はふつうのひとと全然変わらりはありません。
物心ついた時から変わらない体格で、目を開けたとき以来アリスと一緒に森の奥で暮らしています。
生み出された理由は、まだ、教えて貰っていません。

「……アリス、元気にしてる?別に心配してるわけじゃないけど、ずっと会ってないから」
「あ、ご存じだったんですか」
「まあね。ちょっとした知り合いみたいなものよ」

さっきのもやはすぐに晴れました。簡単なことで、このひとはアリスと知り合いだった、それゆえ彼女の素性や
ぼくの情報を知っていただけだったのです。妙に気を張った自分が、急にまぬけに思えてしまいました。
アリスの知り合いだということは、きっと悪い人ではないと思います。随分気が楽だったのですが、さらに楽になりました。



ぼくはこのひとに興味が出てきました。同時に、他の事にも。
いろいろな事を聞いてみたい、聞いてもいいのではないかと、そんな気分になってきました。
勝手知ったる人の家というか、人の良心に穴を掘るような行為をしてもいいのではないかと思いました。
この女性は散歩中の話し相手を探していたみたいなので、ぼくのこの思いはちょうどいいのではないかと
自分の中で、もっともらしい理由をつけてみました。

「昔はアリスともよく遊んだのよ。お茶とお菓子を挟んで、下らない話に花を咲かせたわ」

ふふっ、と声が聞こえました。日傘に微妙にかくれて見えないその向こうで、顔をほころばせているのでしょう。
知り合いというよりは、友達というかんじなのかもしれません。思ったよりも親しい間柄なのでしょうか。
妙な偶然もあったものです。この状況はぼくにとって追い風でした。聞きたい事がアリスに関係していたからです。

さっきも言いましたが、ぼくは自分が何故生まれたのかを知りません。
大きな理由があったはずだと思います。アリスが、大切なものを手放してまでぼくを作った、そういうことだけ知っていたからです。
やっぱり隠されていると気になるものです。ぼくは単純な自分の意味というものを知りたかったのです。
狡猾に、そして慎重にタイミングをはかりました。うわべだけで彼女に話を合わせました。

「アリスったら不機嫌な時は頬杖ついてお茶を啜るのよ。下品だって言ってもやめないの」

楽しそうに話してくれるのはいいのですが、そろそろぼくにターンを与えてくれてもいいと思いました。
振り絞るものをふりしぼって聞いてみます。

「あの、失礼を承知でききたいことが……」
「ん?レディに年齢を尋ねるのは失礼だってママに教わらなかったのかしら?」
「いやそうではなくて」

やっぱりつかみどころのない人でした。息を吐いて、もう一度吸って、ことばを並べてみます。

「ぼく自身のことを聞きたいんです。あなたなら、何か知っているんじゃないかと思って。
 ぼくが生まれる時のこと、何かアリスから聞いたりしていたら、教えて欲しいんです」

言い切ったのはいいのですが、隣の女性がぴたっと足を止めてしまったのは僕の心をぎくりとさせました。
何かいけないことでも言ってしまったのかと思いました。でも年齢を聞いたわけでもなければスリーサイズも聞いてないので
別に怒られるようなことはない、と思いました。

はあ、と、短い溜め息がでした。森の木の葉がかすれる音に消え入りそうな小ささでしたが、僕の耳はしっかりととらえました。
ぼくの心が締め付けられるようです。臆病者だということは自覚しています。怒られたくはないものです。
でも何を言うわけでもなく、そのひとは歩き始めました。さっきと変わらない、ぼくと同じペースです。
散歩をはじめた時みたいに、ぼくは追い付いて歩幅を合わせました。やっぱり歩幅が合ってしまうのが不思議です。



みょうに落ち着いた声で、何かが聞こえました。

「少し、昔話をしましょうか。そんなに昔でもないけどね」


6 :6/13:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ 「むかーしむかし、あるところに、男の子と女の子が住んでいました。男の子は人間で、女の子は妖怪で、
 それでも二人はとても仲良しで、お互いに寄り添いながら、幸せに暮らしていました」

何やら始まった話は、ぼくやアリスの話ではなさそうでした。むかしむかしとあるから、きっと昔話、童話か何かだと思いました。
自分に関する話が聞けるのかと身構えていたぼくはすっかり拍子抜けしてしまいました。
何か言い返そうともおもったのですが、このひとが話を続けるので、なかなか口を挟めません。

「二人の間に子供はいなかったけれども、それでも凄く幸せだったの。もうこれ以上の幸せはないんじゃないか、っていうくらい。
 男の子が一生懸命お仕事をしてウチに帰ってくるのを、女の子はおゆはんを作って待っているの。どう、絵にかいたような結婚生活よね?」
「あ、はい」

いきなり話をふられても、どう答えたらいいのかわからなくて困ってしまいます。
棒付きキャンディが口の中ですぐに割れてしまった時のように、何とも声にはならないものです。

何の話なのでしょうか。そう聞きたいのですけど、やはり口は挟めませんでした。
彼女は楽しそうに話を続けます。ぼくの都合など、はじめから気にしていないようでした。

「男の子は人当たりが良くってねえ、いろいろな妖怪や人間やら、妖精だの、そういうのが集まってくるの。
 結構人気があったらしいわよ?まあ、女の子がそれを独り占めしていたみたいだから、あんまり関係ないんだけどね。
 とにかく賑やかで平和な生活をしていたの。だいたい200年ぐらいかしら、そんな生活が、続きましたとさ」

途中でわざとらしく語りのような口調に変わるのが耳につきます。

「二人とも、こんな生活がずっと続くものだと思っていました」

歩きながらゆれる日傘の影から、このひとの笑った顔がちらりと見えました。
ぼくはその顔を盗み見るようにしてしまって、何だか少しだけ恥ずかしくなりました。

童話なのでしょうか。このひとの語り口は、まさしく幼子に聞かせるそれでした。
ベッドに仰向けに寝かせられてこんな話し方をされてしまったら、待ったをかけずに夢の中でしょう。
赤ん坊だけじゃなくて、ぼくだってきっとそうです。

少しだけ声のトーンが下がりました。

「でもね、当然なんだけど、世の中に永遠なんてものはないの。
 ある日、急に男の子が死んでしまいました。愛の力も病には敵わなかったのね。
 女の子はとても悲しくて、声をあげて泣きました。愛する人を失って、自分だけが残されたことが信じられなくて……」

話し方はやっぱり上手でした。変わらない語り口の中に、マイナスの方面へ動くなにかがプラスされています。
ですが、これも童話にはよくある展開です。最終的に、物語に触れた人が教訓を得るために、こういう結末は用意されているものです。

いつしかぼくは、その話に聞き入ってしまっていました。
話の流れとしては単純なのに、どうしてか、非日常的な状況もあいまって、物語に引き込まれているみたいでした。

「女の子は一日中泣きました。朝も夜も。誰が慰めてくれても、悲しみが和らぐことはありませんでした。
 動かなくなった男の子の胸に顔をうずめて、涙を流し続けました。
 でも、泣いても泣いても男の子は戻って来ません。時間が女の子を少しずつ優しく癒してくれて、
 女の子も悲しい現実を受け入れる覚悟ができたのです」
「なんだか、かわいそうですね」
「そうよね、本当にね」

思わずそんな言葉が出ましたが、自分の口から出たこの言葉はなんてありきたりなのだろう、と思います。
あいするひとが死んで、悲しくないわけがないというのに、この言葉です。自分の不器用さに苦笑いしました。
そんなぼくにも優しく言葉を返してくれるこのひとに少しだけ優しいこころを感じました。

「男の子とは、一つだけ約束がありました。
 ――『僕が死んだら、君の自慢のお花畑に埋めてくれないか。そうすればきっと寂しくないし、君といつでも逢えるから』
 女の子は、お花畑の真ん中にお墓を立てました」
「……」

なんとも言葉に詰まる話です。後を追うことは、ぼくには美徳とは思えませんでした。
何を生むわけでもないからです。命は投げ捨てるものではない、子供でもしっている事だとおもいました。



いちいち何かを言い返すのも野暮かと思って、少しの間黙ってあるいていました。
そうしたら、隣のそのひとも黙るのです。ぼくは少しだけ心配になりました。
このお話はここで終わりなのか、何も生まない悲しみによって締め括られるのかと思うと、収まりがつかない感じがしました。

二人の足音がいっしょになって森の中に響きます。もうだいぶ歩いたようでした。
少しの間、自然が奏でる音を味わった後で、やはり何かを言おうと思って口を開いた時に、
隣のそのひとに先を越されてしまうのです。間が悪いのは、もういつものことです。

「でね、ここからが面白いのよ。聞く?」
「あ、そうなんだ。聞きます」

少しいたずらっぽい言い方でした。この先の話がそんなにおかしいのか、息遣いが少しおどっていました。
ぼくも少しだけ身構えるような気持ちになりました。

ようやく再開された物語には、程良くいい香りがきいていました。
よくある話です。幅を持たせるために、物語に新しい登場人物が出てくるのは。



「男の子と女の子には一番の友達がいました。
 それは魔法使いの女の子。森の奥に住んでいる、美しくて気品のある娘でした」

ほらやっぱり、とぼくは思いました。
何となくそんな感じがしたのです。ほんとうに、何となく、でした。


7 :7/13:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ 「魔法使いの女の子は、紅茶とお人形が好きな、どこにでもいる女の子でした。
 人間の男の子と妖怪の女の子とは、古くからの付き合いで、気兼ねなく話せる関係です。三人はとても仲良しでした」

「彼女もまた、男の子の死を悲しみました。
 家に閉じこもって、声を出さずに泣きました。やはり友達が死ぬというのは悲しいものなのです」

「目を真っ赤に腫らせて、朝も夜も眠らずに死んだ男の子のことを考えていました。
 どうして彼は亡くなってしまったのだろう。彼との最後の会話は何だっただろう。
 彼は自分の事をどう思っていたのだろう。考える事はいっぱいいっぱいありました」

「きっと、本当は、死んだ男の子を好きだったのです。
 魔法使いの女の子は、男の子が死んでからそれに気付いたのでした。
 本当は彼のことを愛していた。でも女の子は臆病で、心から求められなかったのでした。
 男の子には妻がいるし、二人とは仲のいい友達で、それが逆に魔法使いの女の子を苦しめていたのかもしれません」

「男の子の妻の、妖怪の女の子は立ち直りました。
 まだ泣き足りない。泣き足りることなんてない。でもこんな自分を見ても彼は喜ばないだろうと知ったからです。
 男の子との最後の約束を守って、お花畑の真ん中に、素敵なお墓を作りました。
 寝ているように見える男の子の遺体を、そっと寝かせるようにして、蓋をかぶせました。
 男の子の横は空けてありました。すぐ自分もそこで寝るつもりだったのです」

「魔法使いの女の子は、男の子を求めました。
 死ぬ前の男の子を。自分の愛を伝えられる男の子を。
 願わくば、向こうも自分の事を好きだと言って、笑ってくれるような。
 もう涙も枯れてしまった頃に、枕に顔をうずめながら、そんな他愛ない妄想を巡らせていました」

「……」

「どうなると思う?」

「このまま終わる話じゃない、っていうのはわかってるでしょ?」

「続き、話すわね」

「ある日、魔法使いの女の子は起き上がります。
 彼女に不似合いな大きなスコップを持って、黒い布を頭から被りました。
 決めたのです。男の子が欲しいなら、奪ってしまえばいい。遅すぎる事はない」

「丑三つ時を待って、魔法使いの女の子は出掛けました。
 黄色い花に囲まれた丘の上を真っ直ぐに目指して、石碑の前までやってきました」

「躊躇う事なく土を掘り返しました。
 深夜の暗闇に土を掘る音と、荒い息遣いだけが響いていました」

「魔法使いの女の子は、必死で掘りました。
 自分の気持ちを初めて理解した彼女は、強い気持ちのまま、墓を汚し始めました」

「夫を亡くした妖怪の女の子は、そのことに気付きませんでした。
 気持ちの整理ができて、ようやく一人で眠れるようになった頃でした。
 魔法使いの女の子はその時を狙っていたのかもしれません」

「固い何かにスコップが当たって、魔法使いの女の子は感嘆の声を上げました。
 土を退かすと、大きな蓋が。それをずらすと、中から横たわる男の子が出てきました。
 冷たい手を持って、そのまま引っ張り上げた男の子の身体を強く抱きしめながら、何かを呟いて、
 そしてそのまま、魔法使いの女の子は森の奥へと消えてしまいました」

「めちゃくちゃにされた墓と、使い捨てられた道具だけがそこに残っていましたとさ」

「……」

「さて」

「魔法使いとは言えども、魔法というのは万能ではありません。
 死んだ人を生き返らせる事なんて不可能でした。
 魔法使いの女の子にも、それはわかっていました
 でも彼女にはある考えがあったのです」

「魔法使いの女の子は、人形が好きでした。
 自分で作った人形を簡単な魔力で操る。人形劇から日常の世話、戦闘まで。
 魔法にも向き不向きがあります。彼女の場合は、人形を操るのが、すごく、得意だったのです」

「魔法使いの女の子は考えました。それは人形と同じでした。
 ――『動かないのなら、動かしてあげればいいだけだ』
 と。
 彼女にとって、それは何よりも簡単なことでした」

「"魔力"にも色々な形があります。
 結晶化した魔力の事を『賢者の石』と呼びます。
 同じように、液体化した魔力は『生命の水』と呼ばれます」

「暗い部屋の中で、魔法使いの女の子は立っていました。
 目の前には、命を失って土に還りかけている男の子。
 自分の中の全ての魔力を振り絞り、大量に用意した『生命の水』。
 そして、彼女が人形の研究の中で作り上げた、魂の入れ物としての人形・ゴーレムが。
 その三つが、無造作に置かれていました。魔法使いの女の子の頭の中には、ある計画がありました」

「月の光が彼女の横顔を照らす中で、計画は実行されました」

「まず、死んだ男の子の身体を、バラバラに切り刻んで『生命の水』に放り込み、火を点けてかき混ぜます」

「全てを溶かす『生命の水』は男の子の身体を飲み込み、完全に混ざって黒い水になりました」

「これをゴーレムの身体に少しずつ注入していきます」

「男の子を溶かした『生命の水』を人間の血液のように使って、魔導人形を完全に自立駆動させる実験……」

「恐ろしい実験でした。魔法使いの女の子は、男の子のことを思うがあまり、男の子を使って
 疑似生命を新たに作り出すという禁断の道を歩み始めたのです」

「ゆっくり、ゆっくりとゴーレムの身体にドロドロしたものを流し込みました。
 恐ろしい実験をしながら、魔法使いの女の子は笑っていました。
 誰にも止められることなく、女の子は着々と作業を進めていきます」

「そして、魔法使いの女の子の実験は晴れて成功しました。
 ゴーレムは自分の足で立ち上がり、魔法使いの女の子に視線を向け、挨拶をしたのです。
 魔法使いの女の子は両手を挙げて大喜び。涙を流してゴーレムに抱き付きました」

「男の子の脳だけは、『生命の水』に溶かさずにゴーレムの頭の中に置かれていました。
 人形の中に作られた、人間の器官にそっくりなからくりが働いて、脳に『生命の水』を流し込みます。
 実は、魔法使いの女の子はとある細工をしていました。
 男の子の腐りかけの脳の、長期記憶を司る部分をあらかじめ引き千切っておいたのです」

「ゴーレムの中の、男の子の脳は大事なことを忘れさせられていました。
 人間としての自分、最愛の妻、そして自分は死に、一度は光を失ったことを」

「透き通る作り物の目を向けて、ゴーレムがぎこちなく口を開きます。
 ――『ここはどこ?ぼくは一体誰?』」

「女の子は笑顔で答えました」

「――『おはよう。ここは貴方と私の家よ。貴方の名前は○○。可愛い可愛い私のお人形さん。そして、私の名前は……』」


8 :8/13:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ ぼくがどれだけ勘の鈍い存在だとしても、流石に限度があります。
額に汗が垂れる感じがしましたが、ぼくの手はそれを拭おうとはしませんでした。
流れてくるものが汗じゃないかもしれない、と疑ってしまったからです。

衝撃のあまり、つい聞き過ぎてしまいました。いまの話は、作り話なのでしょうか。
本当にそんなことがあるものでしょうか。いやまさか。そんなはずはないと思います。
どうやらぼくは物語に深く感情をのめり込ませすぎたみたいです。
おかしな話を聞いて、ぼくがおかしくなっているのはしょうがないことです。

「お話はここで終わり。めでたしめでたし。どう?面白かった?」

不安なぼくが不安な視線を送っていたのを、そのひとは真っ直ぐに受け止めてくれました。
日傘のしたから顔を出して、ぼくににこりと笑いかけてくれました。
ぼくは何も返せませんでした。言葉を返していいものか、とすら思いました。

この話は、最初だけきれいで、後は薄汚くて、暗くて、グチャグチャしていました。
それに、この話の登場人物は、何故でしょう、心当たりがあるのでした。
ぼくは一緒に住んでいる女の子を思い浮かべました。
あたまの何かが、それをすぐに打ち払いました。

信じられません。世の中には信じられることも、信じられないこともありますが、
この話は馬鹿げているように思えました。ぼくの頭のなかがぐるぐるしています。
ふと、話を遡って考えて、「ぼくの頭」というものを考えました。
これを考えているぼくの頭、それはぼくの何なのでしょうか。人形というものに、魔力を与えただけで
自律思考ができるものでしょうか。少し、気持ち悪くなってきました。

ぼくも最低でした。ぼくはとんでもない推測をしているのでした。
その推測をさせたのは、この話であり、このとなりにいる女性です。
この話は何のためにぼくの耳に入り、ぼくの頭で考えさせられたのか。
深く考えれば考える程、わけがわからなくなりました。

吐き気をおさえるので精一杯でした。耐性がないものですから。



いつの間にか、景色が変わっているということに、ようやくぼくが気が付いたようでした。
日が隠れ、森はうっすらと暗い感じだったのに、周りはどうしてか白くまぶしく光っているのです。
ぼくはどこを歩いているのかわからなくなって、急に取り乱しました。あたりを見回して、ぼくがわかるのは
「ここはどこだろう」という当然の疑問でした。

「あら、もう着いちゃった。楽しいお散歩もこれでお終いかしらね」

隣の女性が前に日傘を伸ばして、細くまとめました。
そのあと軽く伸びをして、足を止めたぼくの前に立ちます。

「見える?この景色が。素敵だと思わない?」

嬉しそうに両腕を広げるそのひとにそそのかされるような感じで、ぼくは白い中で目を凝らしてみるのでした。
よく見ると、ぼくの前、そのひとの後ろの方にはお花畑が広がっているようでした。
背の高い花で、緑の葉っぱと黄色い花びらが揃ったように咲いています。
満面の黄色の中で、少し盛り上がったところには、何やら石碑のようなものも置かれています。
そして、遠くの方に、小さな家があるのもわかりました。可愛らしい、ひっそりとした家です。

「送ってくださって本当にありがとう。身勝手だけど、とても楽しい時間が過ごせたわ」
「いえ、その、はい……」

つまらない答えを出したぼくに、わらった顔が見えました。
後ろに見えるあの家は、どうやらこのひとの住まいのようでした。
言いようのない感覚を味わいながらも、ぼくは小さい子供がするように手を振ってみようとしたら、
急にその手を掴まれてしまいました。そのひとの左手が、僕をぐっと引き寄せます。

いきなりの行為にぼくは驚きました。目が白黒していただろうけど、目に見える景色の色は変わりませんでした。
前を見ると、さっきより近い位置で、このひとは目を細めてぼくを見ていました。

「駄目ね、やっぱり全然似てない。所詮あなたは人形なのね」

もう片方の手、このひとの右の手のひらが、ぼくの頬を撫ぜました。
ゆったりとした動きで、木目をなぞる様な動きをしていました。

このひとに初めて触れられたことで、ぼくは息が詰まってしまいました。
ほんとうは呼吸もしていないぼくが「息が詰まる」と思ったのは、たぶん、これが初めてでした。

何をされるのだろう。このひとの手のひらはずっとぼくの頬に置かれています。
ぼくの身体は、固まったように動きません。

このとき、あることに気が付きました。
そのひとの身体にあらわれていたのです。それが流れているのを、ぼくが見ました。

ゆっくりと頬から手が離れていきました。名残りおしそうに、です。
そして次の瞬間、ぼくは強い衝撃を受けました。一気に景色がぐらついて、ぼくは尻に痛みを感じました。
肩を押された感じもわかりました。目の前の女性がぼくを突き飛ばしたようでした。
びっくりして、壊れた電子時計みたいな声をあげてしまったのが恥ずかしいです。

「それじゃあね。また会いましょう。人形の○○さん……」

ごきげんよう、と聞こえたのが最後でした。

気が付いたら、ぼくは森の中で尻もちをついていました。
目の前にあったはずの花畑は消えています。それどころか、さっきの女性もいません。
ぼくの目の前には木々が生い茂っているだけで、そんなひと、いなかったみたいでした。

ぼくは何を見ていたのでしょうか。夢でしょうか。人形のぼくが、起きたまま夢をみるものでしょうか。
急に背筋が凍るような気がしました。温室育ちのぼくには少しばかりきつかったみたいです。
こんなことばかり起こると、どうしていいのかわからなくなります。ぼくは、前とは反対の方向に走りだしました。
逃げるように走ったのではなく、実際、逃げていたのです。



走りながら、こんなことを考えていました。
もし夢じゃないのなら、幻じゃないのなら、あの女性に、最後にこんなことを聞いておけばよかったと思いました。

「どうして泣いているのですか」

頬に垂れて光る一本のすじをぼくが受け取って、そうしてその意味を知れたなら、
ぼくもきっと何か思うところがあったのだと思います。


9 :9/13:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ 来た道をもどっているつもりでしたが、本当にその道であっているのかは誰にもわからないと思いました。
途中、何度も木の根や土のぬかるみに足をとられました。それでも何とかして走り続けました。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、わけがわからなくなっていました。それを考えるのが嫌だったから、足を動かしました。
考える、誰の脳で考えているのでしょうか。ぼくの脳でしょうか。人形の。

がむしゃらに走って、気が付いたら、よくなじみのある建物の前までやってきていた事に気付きました。
ぼくとアリスの住む家でした。マーガトロイドの人形屋敷、なんて人に呼ばれる、その建物でした。
無意識に支配されている中で、まっすぐこの家を目指して帰ってきたぼくのからだを褒めてやりたかったのですが、
今だけはとてもそんな気持ちになれませんでした。

玄関の鍵はあいていました。おそるおそる戸を開けると、いつもと変わらない家の中がぼくを待っていました。
靴をちらかすように脱いで、足を一歩踏み入れても、やはり何も変わらないぼくとアリスの家でした。
リビングまで進んでみても、わざと大きなため息を吐いてソファに腰掛けてみても、何の変わりもありませんでした。
どこを探してみてもアリスはいないみたいでした。そういえば、アリスを里においたまま、勝手に放れてしまったことを思い出しました。
ぼくはとても反省しました。彼女に会えば、きっと満足がいくような安心が得られると思っていたからです。
勝手にそう思っていただけです。

そういえば、ひとつだけ探していない場所がありました。
アリスが入ってはいけないと言っていた、奥の部屋です。いるとしたらここだろう、とぼくは考えました。
扉の前まで来てみました。黒く塗られた扉はとても重苦しい雰囲気を放っていました。
扉に手をかけてみようか、それだけでも怒られそうな気がしました。でもぼくの心は選択を迫ってきているので、
赤の答えを出すか青の答えを出すか、いそいで決めなくてはいけないところでした。

「○○っ!○○、居るの?居たら返事して、○○!」

心を決めかねている時に、向こうの玄関から大きな声がしました。この部屋は玄関から遠いです。
アリスが帰ってきたのに違いないと思いました。なおもなにか大きな声を出す彼女に答えるように、
ぼくもわざと足音をどたどたと鳴らして駆け寄っていきました。

出掛ける時は上品なかっこうだったはずのアリスは、なぜかとてもやんちゃな格好で戻ってきました。
髪は乱れ、服はところどころ擦り切れ、なかには赤い血がにじんでいるところもありました。
いつも大切そうに抱えている本のブックバンドも、なくしてしまったのか、ついていない状態でした。

ようやくアリスに会えました。湧き上がってくる感情は、間違いなくあたたかいものでした。
アリスも思うところがあったのかもしれません。目を潤ませて、ぼくにつばを飛ばしました。

「馬鹿っ!勝手に居なくなるなって言ってるでしょ!私がどれだけ心配したと思ってるのよ!
 色んなところ探したんだから!私は貴方が消えちゃったのかと思って、すごく不安だったのよ……!」
「あ、その、はい。ごめんなさい……」

覚えのない事まで言われてしまうということは、やはりぼくに非があるのでしょうか。ぼくは頭を下げました。
こんなに声を荒げるアリスを見るのは、きっと、はじめての事だろうと思いました。アリスは真っ直ぐぼくの目を見ながら
頬を膨らませていました。まねするようにぼくも頬を膨らませてみたら、きつい目付きに変わったのでやめました。

しょげてしまいました。それに、今日は災難な日なのではないかと思いました。
ぼくはぼくでアリスに言いたい事があったものの、アリスの感情の振れ幅の大きさにまたしても少し臆してしまいました。
でもやはり、アリスの顔を見ると、ぼくの心は落ち着くのでした。アリスは頼れる、アリスだけは頼れると信じているからです。
他の何かに惑わされようとも、アリスだけはぼくのそばにいてくれる事を知っていたからです。



アリスの小指とぼくの小指があたらしい約束を結びました。

「貴方は人形なの。術者の私がいないと何もできない。わかるでしょ?もう私の傍から離れないと誓ってちょうだい」
「はい。ぼくはもう勝手に散歩に行ったりなんてしません。約束は守ります」
「散歩?どうしてまたそんな……あいつみたいな……」

アリスとぼくが小指と小指で繋がれているときに、アリスは何かを知ったような顔をしていました。
目を見開いて、ぼくの顔を見るのです。ぼくはここで話そうと思いました。
アリスの友人を名乗る人と散歩に行った事と、そこで聞いたおはなしのことを。

テーブルについてから話しました。立ちっぱなしで言うには少し長い話になると思ったからです。
えらそうに着席をうながすと、アリスは黙ってぼくの向かいに座ってくれました。
ぼくは椅子の座り心地を確認した後、二人の間にあるランプに火を灯しました。少しうす暗かったからです。

向かいにすわるアリスは落ち着きがありませんでした。何だかそわそわして、まるで何かをこわがっているようでした。
同時に、ぼくも同じだとわかりました。ぼくの手が震えています。こわがっているようではなくて、
実際に今から話すことが怖いからです。

もしかしたら、触れてはいけないことに触れようとしているんじゃないか。
この話をしてはいけないのではないか。
何かを知ることはお互いにとって良くないことなのではないだろうか。
短い間にいっぱい考えました。

勝ったのは好奇心だと思います。ぼくは知りたいのです。ぼくの生まれた本当の意味を。
アリスほどの存在が、何の意味もなくぼくを生み出すとは思えません。
そうして、それがさっき聞いた話と関係してくるか。あのひとの不思議な話は本当なのか。
知りたいのです。それはぼくの話なのか。

信じられない話ですが、真実の前でそれがほんとうのはなしになるのなら、ぼくはどうやって受け止めようか考えました。
目の前に座る金髪の少女は、他の人を愛した男の墓を発き、その死体を、脳を、血を、肉を、骨を、すべてを使って
そうしてぼくという一つの人形を作り上げたのか。
言えなかった自分の気持ちと、得られなかった本当の愛を、全て混ぜ込んで溶かしてしまって、ぐちゃぐちゃのまま、
新しく作り上げるために、そんな、とても正気じゃない行動を起こしたのか。

アリスは、ついた肘の上で手を重ねて、その上に額を乗せて、顔を伏せていました。
ぼくがなにを言おうとしているのか、わかっていたのかもしれません。
そんな姿にどう声をかけていいものか、ぼくも非常に悩みました。

正直なところ、ぼくは怖かったです。
でも言わなくちゃいけないと思いました。それに、だいたいもうわかってきた気がします。
あれは幻じゃない。あの女性も、妄想なんかじゃない。そしてあの物語も。

口を開けるのが随分重かったです。



「今日、緑髪の女性に会った。そして歩きながら話をしたんだ。だいぶ前の話だけど……」



アリスはぼくの声を聞いて、根元から崩れるように泣きました。


10 :10/13:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ 今日は定期健診の日です。といってもどこかへ出かけるわけではありませんでした。
ぼくと、彼女の住んでいる家の一室で行われる、いつもの行為でした。

「はいおしまい。お疲れ様でした」

朝日が差し込む部屋で、その行為が終わったことを教えられました。
言いながら、彼女はぼくの背中をぽんと叩きます。肌で、乾いた音がしました。
ぼくは何となく恥ずかしいです。それに、肌寒いかんじもしました。

ぼくは日光があまり好きではありませんでした。だから顔をしかめました。
それにしても、寝ている間に終わってしまうので、ぼくとしては実感もなにもあったものではありませんでした。
首をコキコキと鳴らすと、何故だか彼女が面白がって笑います。ゆびを指して、ぼくを笑いました。
最初はぼくはむっとしましたが、次第につられて笑いました。

足元でへたっているシャツを見つけて、左手でひょいとそれを持ち上げました。
さっさとこれを着て、肌寒さや恥ずかしさとおさらばしてやろうと考えました。慣れ親しんだ人だとしても、
やっぱり裸の姿を見られるのはいいものではないからです。

でも、目の前の彼女はぼくの手を制しました。
おかあさんがそうしてくれるように、ぼくにシャツを着せてくれるのかとはじめは思いましたが、そうではないようでした。
シャツをまたくしゃくしゃにして、ベッドのへりに置きました。置かれたシャツは、またへたりました。

何をするのかな、まだ続きがあるのかな。
そう思ったら、彼女は目を瞑って、はだかのぼくに抱き付いてきたのでした。
びっくりしして、バランスを崩しそうにするぼくをそのままに、彼女は腕を回してぼくをしめつけるのです。

「な、な、何!アリス何してるの!ちょっちょっちょっと待って!」
「いいの。少しの間、こうしていたい……」

木になる林檎よりも、ぼくの顔の方が赤かったと思います。
こんなに恥ずかしいことはなかなかないと思いました。ぼくの心臓は跳ね上がってどこかへ飛んでいきそうでした。
そんなぼくを徹底的に無視して、彼女は顔をうずめました。

そうしてそのままいくつかの時間がぼくと彼女の元から去っていきました。
彼女の身体から、じんわりとしたあたたかさが、ぼくの身体にうつってくるようでした。

目のやり場に困って壁を見て知ったのですが、今は、月の初めだということでした。
カレンダーがぼくに教えてくれました。


11 :11/13:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ 知らなかった。知らなかったの。こんなに愛おしいなんて。
ごめんなさい。私、知らなかった。○○の事が、こんなに好きだったなんて。
どうして死んじゃったの?どうして私を置いて死んでしまったの?

今なら自分に素直になれるから。また会いたい。貴方にまた会いたい。
また貴方の顔を見たい。私、貴方に言いたい事があるの。
だから、絶対貴方に会いたい。会うの。嫌だとは言わせないわ。
逃げも隠れもしないで。そこで待っていてくれるんでしょう?

大丈夫。私と貴方なら、きっと上手く行く。貴方だって、もうこんな悲しい思いをすることもない。
私がずっと隣にいてあげるから。私だったら隣にいてあげられるから。
もう一度、やり直そう?一回、全部リセット。その後、私と貴方の二人で描きましょう。
私に任せて。私ならできるから。だから、もう少しだけ、待ってて。
もうすぐ届くから……。



会いたかった……!


12 :12/13:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ むかしむかし、あるところに。
理を超えてもう戻れない場所へ行ってしまった魔法使いの女の子と、魂までも絡め取られた操り人形の男の子が住んでいました。
暗く湿ったところで隠れるように暮らす二人は心のどこか互いを憎み合いながら、誰かの幸せを踏み潰して暮らしておりました。


13 :13/13:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ めでたしめでたし。


14 :バウムクーヘン名無しさん:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ http://www.nicovideo.jp/watch/sm1767725 


15 :バウムクーヘン名無しさん:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ http://www.youtube.com/watch?v=c1-PWHrqggc 


16 :バウムクーヘン名無しさん:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ 「東方のアリス・マーガトロイドさんを愛し続けてみた」頒布記念作品


17 :バウムクーヘン名無しさん:2012/11/01(木) 20:04:51 ID:YuUkRin
|っ^ー^)っ |っ^ー^)っ <うどんごはん!


18 :停止しました。。。 :停止
|っ^ー^)っ 真・スレッドストッパー。。。 |っ^ー^)っゎぁぃっ★









8 KB [ ゆうかりん 幻想郷をささえる フラワーマスター \87/2HN/100Ykrn]
ウェブ拍手




■ おすすめアイテム ■

裏サンデー!

「ケンガンアシュラ」が面白すぎて他の漫画が霞む裏サンデーをみんなも読もう!
あと一応「ヒト喰イ」も読むよ!たまにはロリコンもいいよね!たまロリ!


read.cgi ver 05.0.7.9 2010/06/01 シルバームーン仮面 ★
ZUN TPH(Toriaezu Pitcher Hitotsu)